編み手さんたち｜気仙沼ニッティング

こんな編み手さんたちが
編んでいます。

気仙沼ニッティングの商品は、
編み手さんたちが一着ずつ、
手編みをしています。

編み手さんたちには、
それぞれに、それぞれの、
編んできた歴史があり、編み方のくせがあり、
震災の記憶があり、家族があります。

気仙沼ニッティングでは、お客さんと編み手さんが、
単に「注文する人」と「編む人」
という役割だけの関係でつながるのではなく、
人と人としてお付き合いできるように
おつなぎできるといいなぁと思っています。

気仙沼ニッティングの商品には、編み手さんのタグがつきます。

あきこさんが子どものころ、おばあさんがよく編み物をしていて、あきこさんのためにセーターやハラマキきを編んでくれたそうです。小さいころから編み物が身近だったあきこさんがはじめて本格的に編んだのは学生のとき。おじいさんへの誕生日プレゼントにグレーのセーターを編んだのだそう。最初に編み上がったときはえりが小さく頭が入らず、編み直し、なんてことも。そのセーターを気に入ってずっと着てくれる姿を見て、「自分が編んだものをだれかに着てもらえるのってうれしいな」と思ったそうです。「そのころから、いつも編んでいると楽しくて。いまも、いつもなにか編んでいます」と話すあきこさん。やわらかい雰囲気のなかに、純粋に編み物を楽しむかわいらしさがあふれます。
明るくほがらかなえみさんは、前職は靴の「パタンナー」でした。学生時代は靴の「デザイン」を勉強していたそうですが、「自分はデザイナーよりも、ものをつくりだす職人の方が向いてる」と考えて、パタンナーになったのだそうです。えみさんは、小さいころから手を動かすことが大好きだったといいます。編み物はお母さんに教わり、子どものころから冬になると編み物をしていたのだとか。気仙沼ニッティングの編み手になってからは、ひとりの時間にもくもくとセーターを編むことが楽しみな日々です。職人気質のえみさんのセーターは、一着一着、すみずみまできれいに仕上げられています。
岩手出身のゆうこさんにとって、羊は身近な存在でした。小さいころは近所の家に羊がいて、「おとなりの羊に、子どもがうまれたってよ」なんていう会話が日常の中にありました。ゆうこさんにとって羊は、ペットのような存在だったのだそうです。そんなゆうこさんは、小学生のころに編み物をはじめました。編み物の先生はお母さん。「編んだものをお母さんに見せると、ダッダッダッと何段もほどかれて、『ここから編み直しね』といわれたりして。スパルタだったの」となつかしそうに話します。震災後に編み物を再開したところ、編んでいるときは気持ちが落ち着くために、夢中になったのだそうです。やわらかい雰囲気のゆうこさんが編むニットは、やさしい空気をまとっています。
ゆみさんは、気仙沼の海の近くで生まれ育ちました。お父さんは魚の買いつけの仕事をしていて、朝早くに魚市場に行き、午後には家に帰ってきて、さまざまな趣味をたしなんだそう。そんなお父さんに似て、ゆみさんもコーラス、ピアノ、読書と多趣味。小中は合唱部でしたが、自分を変えたくて、高校から運動部に入りました。「最初の1ヶ月はとにかく大変だったけど、おかげで体育会系な人になった」と笑顔で話します。やわらかい雰囲気をまといながらも、芯のしっかりしたゆみさん。編み物の好きなところは、こつこつ手を動かすことで形が生まれてくることだそう。「元来怠け者なので、編み物も、日々修行です」とおだやかに話すゆみさんは、職人気質にあふれる編み手さんです。
こまかい気配りのできるやさしいえりさんは、結婚をきっかけに気仙沼にやってきました。えりさんは子どものころから手芸が大好きだったそう。はじめて編み物にふれたのは小学校3年生のとき。小学校は手芸部で、編み物のほかにもフェルトやビーズなどで、いろいろなものをつくりました。好奇心あふれるえりさんですが、編み物は大人になってからずっと続いている、いちばん長い趣味なんだそうです。趣味がまさか仕事になるなんて…とうれしそうに話すえりさんは、こまかい編み柄も、集中して、こつこつていねいに編んでいきます。気配りにあふれたえりさんのニット、ぜひ手に取ってみてくださいね。
ますえさんの周りは、いつも楽しく会話がはずみます。雪深い町で生まれ育ったますえさんが、初めて編み物にふれたのは小学生のころ。編み物が楽しくて、いつも毛糸を持ち歩き、編んだりほどいたりしていたそうです。転々と引っ越しをしても、毛糸と編み針のセットはいつも一緒。そんな編み物が大好きなますえさんが気仙沼に住むことになったのは、震災ボランティアがきっかけ。「また来てくれてありがとう」という言葉がうれしくて、何度も通ううちに、ついに住むことにしたのだとか。そのとき編み物に再会して、やっぱり編み物は楽しいと、夢中になったそうです。ますえさんは、複雑でむずかしい編み方も、楽しみながら編んでいきます。
スポーティでしっかり者のみわさんが編み物を始めたのは、まだ小さな子どものころでした。親戚のお姉さんにあこがれて、どうしても編み物をしたかったみわさん。でも、その当時、編み棒はかんたんには手に入りませんでした。そこでみわさんは、家にあった箸を編み棒代わりにして、セーターを編んだんだそうです。編み棒がないからといって、簡単には諦めないところが、なんともみわさんらしいです。みわさんの趣味は、モータースポーツ観戦。なんと、8時間つづくバイクレースを、休まず見続けたこともあるんだとか。そんなみわさんの編むセーターは、ひと目ひと目、根気強くていねいに編んだことが伝わってくるような、しっかりとした編み地をしています。
すみこさんは、いつも元気で明るく、みんなのお姉さんのような存在です。すみこさんは気仙沼の唐桑という漁師町のご出身で、お父さんは漁師さんでした。すみこさんは小さいころから元気いっぱいだったようで、野山を飛んで歩き、夏は海に飛び込んで、ときには漁船の通ったあとの波に乗って、遊んでいたのだそうです。学校を卒業してからは、縫製工房でスカーフを作ったり、お肉屋さんに勤めたりと、いろんなお仕事をされてきたアクティブなすみこさん。そんな元気なすみこさんですから、編み物の仕事をしていると言うと友達には驚かれるそうですが、編み物の腕は確かなもの。一着一着ていねいに編み上げたセーターは、編み目のそろったきれいな仕上がりです。
さとみさんは、気仙沼のなかでも、山に近い地域で生まれ育ちました。ご実家では羊を飼っていて、毎年春になると羊の毛を刈り、毛糸にしていたのだそうです。さとみさんのお母さんは編み物が上手なひとで、さとみさんもいつからか、自然と編み物をするようになりました。子どものころからおちついた性格で、ひとりで集中して何かをすることが好きだったさとみさんは、いまも編み物が大好きです。震災後はあわただしい日々を送っていたので、いまはおちついて編み物をできることがなによりも幸せで、ありがたいのだと、さとみさんはほほえみながら語ります。
やさしいお母さんという雰囲気のあるりみさんは、真っ赤なつつじが有名な、徳仙丈山のふもとの町で生まれ育ちました。編み物は小学生のころからされていて、友達同士で教えあいながら、わいわい楽しく編んでいたんだそうです。結婚してからは、家族のためにたくさん編みました。りみさんが4人のお子さんのために編んであげたおそろいのしましま帽は、子どもたちのお気に入りで、どこへ行くにもみんなその帽子をかぶって出かけたそうです。そんな仲よし家族のお母さんが編んだセーターには、家族のために編んだもののようなあたたかさがあります。
明るい笑顔が印象的なみわさんは、生まれも育ちも気仙沼。お父さんは腕利きの大工さんで、みわさんのご一家は、お父さんの建てたおうちに住んでいます。編み物は二十歳のころに始めたそうで、紺色の毛糸で編んだ雪玉もようのカーディガンは、いまも大事に着ているのだとか。みわさんは浜田省吾の大ファンで、ファンクラブにも入り、コンサートには欠かさず行くのだそうです。好きなものについて話すときのみわさんの目は輝いていて、まわりの人も思わず笑顔になってしまいます。そんな明るいみわさんの編むセーターは、肌触りもやわらかく、親しみやすさを感じるような仕上がりです。
お茶屋の娘さんとして育ったみよこさんは、上品な風格を漂わせています。みよこさんは、「自分のことは自分でできるように」というお母さんの思いから、編み物、裁縫から茶道にいたるまで、生活に根差した習い事はひととおり習ったといいます。編み物は習い事以外ではあまりしていなかったというみよこさんですが、娘さんができると、体が大きくてかわいい洋服が着られなかった娘さんのために、特別サイズのセーターを編んであげたそうで、娘さんはとっても喜んだのだとか。みよこさんはいまも、娘さんに編んであげたときと同じような、あたたかい心持ちで、セーターを編んでいます。
編み物が大好きなみちこさんは、旦那さんに毎年あたらしいセーターを編んであげていました。東日本大震災のとき、みちこさんが住んでいた地域は多くの家が流されてしまいましたが、みちこさんが編んだセーターは、たまたま流されずに残ったのだそうです。避難所では、地域で流されずに残ったものをみんなで分けあって使っていたので、知らないおじさんが、みちこさんの編んだセーターを着ていることもあったのだそうです。「なんだか不思議なかんじだった。でも、あのときはほんとうに寒かったから、着てもらえてよかった」とみちこさんはふり返ります。みちこさんは、今日もだれかにあたたかく過ごしてもらうために、セーターを編んでいます。
からっと明るいよしえさんは、気仙沼の唐桑という漁師町のご出身で、お父さんは船主さんでした。よしえさんの家には、世界各地を回る漁師さんたちから、たくさんのお土産が集まってきたので、よしえさんは海外のすてきなものに囲まれて育ちました。そんなよしえさんには2人の娘さんがいて、娘さんたちがお仕事でたいへんなときには、東京まで駆けつけて、1年間ほど住み込みで家事をしてあげたのだそうです。よしえさんの面倒見の良さがよくあらわれている、すてきなエピソードです。よしえさんはとってもお話上手で、よしえさんの話す海の男にまつわるお話に、編み手さんはみな聞き入っています。
ようこさんはまだ幼いころに、キューピーちゃんの人形に洋服を着せてあげたくて、おかあさんにかぎ編みを教わったそうです。それから長年、周りの人のために小物を編んであげてきたようこさん。「全部ひとにあげてしまったから、手元には一つも残ってないよ」と笑う姿は、なんともすがすがしいです。そんなようこさんは読書が好きで、高校生のときの愛読書は、吉行淳之介の対談本。家には旦那さんのものもあわせて、数えきれないほどの本があるとか。たくさんの本に囲まれて生活しているようこさんは、どこか知的な雰囲気をまとっています。
りつこさんのおばあさんとお母さんは日本舞踊の先生で、りつこさん自身も小さいころから日本舞踊を習っていました。そんな伝統ある家庭で育ったりつこさんは、優しい雰囲気のなかに、ときおり上品さを感じさせるような、すてきなお人柄の編み手さんです。そんなりつこさんは高校時代、ボーイフレンドにどうしてもセーターを編んであげたくて、本をみて独学でセーターを編み上げました。サイズは少し大きくなってしまったけれど、それでも彼はよろこんで着てくれたそうです。きっと、りつこさんの真心が伝わったのでしょう。今でもりつこさんの編むセーターは、着る人のことを思う真心が込められていて、思わず笑顔になってしまうような着心地です。
さとみさんは、気仙沼湾の入り口に位置する町のご出身。編み物を始めたのは、小学生のころ。夏休みの宿題で、手編みのカバンを作ったのがきっかけだったそうです。それから編み物が大好きになったさとみさんは、中学校に上がってからはセーターなども編み、高校を出てからは編み物の教室にも通いました。長年編み物をしてきたさとみさんが編むものは、バランスが取れていて美しい仕上がりです。最近の楽しみは、生まれたばかりのお孫さんに会うこと。次に会える日を待ち遠しく思いながら、さとみさんはこつこつとセーターを編んでいます。
穏やかで落ち着いた雰囲気のあるきょうこさんは、室根の農家のおうちに生まれました。編み物は中学生のころからしていて、むかしは妹さんたちにセーターを編んであげていたのだといいます。思い出の作品は、娘さんの就職祝いに編んだ、色とりどりのカーディガン。編むのに時間がかかり大変だったけれど、そのぶん完成したときの達成感は大きく、娘さんもとてもよろこばれたそうです。趣味は人形作りで、つくったお人形は季節に合わせて飾って楽しんでいるそうです。きょうこさんのていねいな暮らしぶりが伝わってきます。
ふわりとおだやかな雰囲気のかなこさんは、小さいころから手芸が大好きでした。いたずらっ子だったかなこさんは、お母さんのかぎ針と糸をこっそり借りて、小物を作って遊んでいたそうです。なかでも自分で作った財布がお気に入りで、もう十年以上も大事に使い続けているんだとか。そんなかなこさんは手芸品情報に敏感で、イベントやワークショップの情報を仕入れてはせっせと足を運んでいます。そんなふうにたくさんの手芸品を見てきたかなこさんは、良いものを見抜く目を持っていて、かなこさんが編むものもまた、たしかな美しい仕上がりをしています。
ひろみさんは、気仙沼の酒屋さんのおうちに生まれました。小さいころからお店の看板娘として手伝いをしていたひろみさん。いつもにこにこ笑顔のひろみさんがお店に立っていたら、きっとお客さんはうれしかっただろうなと思えます。いまもお酒は大好きで、旦那さんと一緒にお酒を飲むのが楽しみなんだそう。そんなひろみさんは、編むときの集中がとても深いです。周りが少しにぎやかでも、編むと決めれば集中して、黙々とすばやく編み進めていきます。そんなふうに編まれたセーターの編み地は、緻密で正確で、思わずはっと息をのむような、美しい仕上がりです。
いつもにこにこしながら編み物をされているれいこさんは、岩手県の山のふもとで育ちました。ご実家はたばこ農家で、れいこさんは夜なべをしてたばこ葉を干すのを手伝っていたのだそう。お母さんに聞かせてもらえる昔話を楽しみに、眠い目をこすりながらもやっていたのだそうです。れいこさんは中学を卒業後、集団就職で三重県の紡績工場に勤めます。15才で親元を遠く離れることもさびしくはなく、ただ『働かなきゃ』、という意識が強くあったといいます。そんな真面目なれいこさんの編むセーターは、すみずみまで行き届いた仕事がしてあって、端然とした出来映えです。
しゅうこさんのお父さんは、イカ釣りの漁師さんでした。お父さんは手先が器用で、テグスを買ってきて自分で漁の網をつくることもありました。編み物も上手で、しゅうこさんのセーターのすそがほつれてしまったときも、お父さんが直してくれたそうです。そんなお父さんは、高校生になったしゅうこさんに「手に職はつけておきなさい。身を助けてくれるから」と言いました。そこでしゅうこさんは編み物教室に通って編み物を学び、洋裁や着付けも習います。のちに呉服屋さんに嫁いだしゅうこさんは、このとき身につけたことが役に立ったそうです。しゅうこさんは、どんなときも明るく前向き。編み物をするときもいつも楽しそうです。そんなしゅうこさんの編むセーターもまた、明るくほがらかな表情をしています。
だいきさんは、気仙沼大島という、気仙沼湾に浮かぶ島のご出身です。大島は、かつて「緑の真珠」と詠まれたほど、自然が豊かな美しい島です。だいきさんは震災後、時間だけが過ぎていく中で、なにか趣味がほしいと、編み物をはじめたのだそうです。以来編み物に熱中し、いまでは趣味の域を超えて、プロの編み手さんとして活躍しています。だいきさんに、編み物のどこが好きなのかたずねると、「編めば編んだだけ形になっていくところ」とのこと。陽気で気配り上手なだいきさんは、編み手さんたちの人気者です。編み会にだいきさんがいると、場が明るくなごみ、ほかの編み手さんたちも楽しそう。そんなだいきさんの編むものは、いつもきれいで繊細です。
華奢でかれんなあすなさんのご実家は、気仙沼に代々つづくお蕎麦屋さんです。働き者のあすなさんは、小さいころから、お店のお手伝いをしていました。社会人になったいまも、お店の手伝いはするのだそう。「家の手伝いみたいなものですから」と笑います。そんなあすなさんは小さいころ、セーターを編んでくれているおばあさんの手元を、横にすわってじーっと見つめるのが大好きだったといいます。小学生になると、大好きなおばあさんに教えてもらいながら、いっしょにマフラーを編んだんだそうです。そんなあたたかい家庭で育ったあすなさんのセーターを着ると、きっと心も体もあたたまります。
いつもとびきりの笑顔で、誰にでも明るく接するひなさんは、編み手さんであるだけでなく、気仙沼のカフェの店長さんでもあります。もともとは愛知県の出身ですが、大学生のとき、震災後の気仙沼を旅して、「この町がこれからどうなっていくのか見ていたい」と思い、移住を決意したのだそうです。いまでは持前の明るさで、すっかり気仙沼になじんでいます。そんなひなさんが編み物にふれたのは、編み物がとっても上手なおばあさんがきっかけでした。おばあさんとお母さんと3人でかわるがわるマフラーを編んだんだそうです。思い出のマフラーは、今も気仙沼に持ってきて、寒い冬を乗り越えるのに活躍しています。おばあさんに似て編み物が上手なひなさんの編むセーターは、明るく気持ちのいい表情をしています。
ひろこさんは、大学時代にいまの旦那さんと知り合って、岩手県の大船渡にある旦那さんのご実家に、お嫁さんとしてやってきました。くる前は不安でしたが、いざ住んでみると、自然が豊かで、子どもを育てるのにはすごくいいな、と大船渡がとても好きになったそうです。ひろこさんの趣味は生け花で、震災をきっかけに、「いつまで生きていられるかわからないから、もっと色んなことをしよう」と思い、始めたんだとか。編み物は20代のころからされていて、編んできたものは、すべて大事にとってあるそうです。そんなひろこさんの編むセーターは、大事に編まれてきたことがわかるような、美しい仕上がりをしています。
朗らかで笑顔のやさしいたみこさんは、気仙沼の海のすぐ近くで育ちました。たみこさんのご実家は、海ではのりの養殖をし、陸では稲を育てるという、いわば半農半漁のお仕事をされていました。そんなご家庭で育ったたみこさんは、海で泳いだり、貝をとったりと、自然と親しんで過ごしたそうです。たみこさんが嫁いだ先はいちご農家でした。毎年、近くの学校に通う子どもたちに、いちご狩りをさせてあげていたんだとか。「子どもたちの喜ぶ姿を見るのが楽しみだった」と、たみこさんは懐かしそうに語ります。そんなたみこさんの編むセーターは、どこか優しい雰囲気をまとっています。
いつも穏やかなまつこさんは、震災前は縫い物のお仕事をしていました。編み物は高校生のころにお姉さんに教わりながら覚えたそうで、結婚してからは、旦那さんとふたりのお子さんのために、セーターや手袋を編んであげていました。そんな風に、縫い物も編み物もされてきたまつこさんは、「糸にはなじんでいたねえ」と笑います。あるとき息子さんにセーターを編んでいたら、思ったよりも息子さんの成長がはやく、丈が足りなくなってしまったことも。そんなときは、さっとほどいて、編みなおしてあげたんだそうです。いまは息子さんといっしょに仲良く暮らしていて、最近の楽しみは花を見ること。庭に植えたばらの花が咲くのを、まつこさんは毎年楽しみに待っています。
おっとり優しいやすこさんは、姉妹ふたりで小さな本屋さんを経営しています。この本屋さんは、やすこさんのおばあさんが開いたお店で、やすこさんの人当りのよさからか、いまも地元の人たちに愛され続けています。やすこさんが編み物を始めたのは、二十歳のときでした。お母さんが服を手作りするのを見て育ったやすこさんには、自分も服をつくってみたいという思いがありました。そこで二十歳のときに一大決心をして、セーターを編み始めたのだそうです。近所に住むおばあさんに教わりながら、苦労しながらも編みあげたセーターは、いまも大事にとってあるそうです。
あやこさんは、小さいころから編み物が好きでした。あやこさんは就職するときに気仙沼をはなれ、手芸からも遠ざかっていたのですが、あるとき気仙沼ニッティングのことを知り、「やりたいことをやろう！」と思い立って、編み手になるために気仙沼に戻ってきたのだそうです。いまは好きなことを仕事にできてとても楽しいと、あやこさんは生き生きとした笑顔で語ります。目標は、もっともっと編み物が上手になって、もっと難しい商品を編めるようになること。そのためにも、あやこさんは目の前のセーターに集中して、真剣に、編み進めていきます。
のりこさんのおじいさんは、漁師さんでした。仕事道具はじぶんで作っていたというおじいさんは、手先が器用で、毎年お盆の時期には、川に流す灯籠も作っていたんだそうです。そんなおじいさんに似て、のりこさんもとっても手先が器用です。小さいころにいとこのお姉さんに編み物を習って以来、ものづくりがずっと好きで、息子さんが生まれるときにはセレモニードレスを作ってあげたり、友達にセーターを編んであげたりと、人のためにものを作ってあげてきました。そんなのりこさんが編むセーターは、着る人のことを思って編まれたことが伝わってくるような、やさしい着心地です。
たかこさんは、北海道の旭川のご出身。大きくて豊かな自然のなかで育ちました。たかこさんが小さいころは、雪が積もると馬そりに乗って、毛布にくるまりながらお買い物に出かけたのだそう。旭川の冬は、マイナス20度を下回ることもあったそうですが、寒い日でも、小学校へは40分かけて、てくてく歩いて通ったのだそうです。厳しい冬の寒さを知っているたかこさんは、あたたかい服を着られるうれしさもまた、よく知っています。たかこさんが編むセーターには、「着る人が、寒い思いをしないように」というあたたかな思いがつまっているのかもしれません。
岩手県の山あいの農家のおうちでそだった、上品でやさしいゆうこさん。かぎ針編みが好きで、小さいころからやっていたそうで、着るものをたくさん編んでいたんだとか。「本を見て適当にやっていただけ」とゆうこさんは言いますが、編んだものを見るとどれも美しく、こんな何気ないひと言にも、ゆうこさんの謙虚なお人柄がよくあらわれています。また、ゆうこさんは、編むものが美しいだけでなく、編むのもとっても速いです。長年のかぎ編みで培われた手先の器用さが活きているのでしょう。そんなゆうこさんの楽しみは韓国ドラマを見ること。ゆうこさんは、次回のドラマ放送を楽しみに待ちながら、毎日手ばやく美しく、編み物をしています。
人が大好きで、おしゃべりも大好きなやすこさんの周りには、いつも笑顔が絶えません。やすこさんは、気仙沼の唐桑という町で、年の離れたお兄さんたちといっしょに育ちました。旦那さんは遠洋漁業の漁師さんで、一度海に出ると1年間は家に帰ってきません。なので旦那さんが海にいる間、家を守るのはやすこさんの役目です。やすこさんはその持ち前の元気さと明るさで子どもたちと仲良く暮らし、その役目をしっかりと果たしてきました。そんなしっかり者で頼れるやすこさんは、小さいころから編み物が大好きなのだそう。やすこさんは、「好きなことを仕事にできて幸せだ」、と心からの笑顔で語っています。
まゆみさんのご実家は、気仙沼からも見える室根山という山のふもとの新聞屋さん。冬は山頂から室根おろしという冷たい風が吹き、降った雪は春が来るまで溶けないほどに寒さの厳しいこの地で、まゆみさんはたくましく育ちました。そんなまゆみさんは、小さいころから、踊るのが好きでした。昔はお母さんといっしょに日本舞踊を舞い、結婚してからは、旦那さんといっしょに社交ダンスを踊ったのだそうです。まゆみさんは、踊っている姿がよく似あう優雅な人で、まゆみさんが編むものも、気品ただよう上品な仕上がりをしています。
誰にでも気さくに話しかけてくれる、とっても優しいきょうこさんは、気仙沼のご出身。お父さんは国鉄の職員さんで、なんとその時代は、国鉄職員とその家族は電車に無料で乗れたのだとか。なのできょうこさんは、お父さんと一緒に、電車に乗って日本全国を旅してまわったんだそうです。きょうこさんはかぎ針でのレース編みを昔からされていて、ご近所の本屋さんにおいてある編み物本はすべて買っていたほどに、レース編みが好きだったそうです。そんなきょうこさんの編むセーターは、うっとりするほど編み目が美しく、ずっと大切に着たいと思える仕上がりです。
みちこさんは、小さなころから、手を動かしてなにかをつくることが好きでした。中学・高校のときは美術部で、絵を描いていました。いまでも、絵をみるのは好きだそうです。編み物をはじめたのは、お母さんがきっかけ。若いころ仕立て屋さんにつとめていたお母さんは、家でもよく手仕事をしていました。みちこさんのために洋服をつくってくれることもあったそうです。そんなお母さんにカギ編みを教えてもらったのが、みちこさんにとって初めての編み物でした。その後棒編みも覚えたみちこさんは、大人になり、お母さんになってからは、今度は息子さんのために、ピアノの発表会で着るベストを編んであげたりしたそうです。家族のために服をつくることが身近だったみちこさんの編むセーターは、どこかやさしい雰囲気があります。
けいこさんは、気仙沼の大島という島で生まれ育ちました。けいこさんのおじいさんは、気仙沼と大島を行き来するフェリーの船長で、けいこさんも、そのフェリーに乗って気仙沼の高校に通ったといいます。お父さんも船乗りで、けいこさんにとって、海はいつも身近な存在でした。けいこさんが編み物をはじめたのは、おばさんの影響だそうです。小学生のころ、編み物が得意だった叔母さんが、よくけいこさんのためにセーターを編んでくれたのだそうです。その叔母さんに習って、けいこさんも編み物を始めました。いつも明るい笑顔のけいこさんが編むセーターは、その人柄を映すように、ほがらかな表情をしています。
けいこさんのお父さんは、国鉄に勤める鉄道員でした。気仙沼の駅の改札で、切符を切っていたそうです。その姿を見ていたからでしょうか、けいこさんも、学校を卒業すると国鉄に勤めました。けいこさんの仕事は、駅の電話交換。あっちの駅からこっちの駅へ、電話を取り次ぎます。当時はモールス信号も覚えていたのだとか。その後結婚したけいこさんは、よく家族のために、本を見ながら編み物をしたそうです。最近では、孫のためにベストを編んだりもしているそう。コツコツと、地道に手を動かすのが好きなけいこさんの編んだセーターは、いつもきれいで美しい仕上がりです。ぜひ見てみてくださいね。
のりこさんは、気仙沼の唐桑に住んでいます。唐桑は、気仙沼の中でも漁師さんたちが多く住む地域です。のりこさんのだんなさんも船乗りで、一度海に出ると３ヶ月は帰らないそうです。「でも、休むときは１ヶ月ぐらい、ゆっくり家で休めるので、それはそれでいいんですよ」とのりこさんは微笑みます。のりこさんのご実家は、みんな手仕事が好きだったそうです。のりこさんが子どものころは、夕ごはんのあと、おばあちゃんも、お母さんもセーターを編んでいて、のりこさんも自然と編み物を覚えたそう。おっとり、やわらかい雰囲気ののりこさんが編むセーターは、着る人をやさしく守ってくれそうです。
よしえさんのお父さんは、カツオ船の漁師でした。一度漁に出ると、何ヶ月も家に帰りません。お父さんは、漁のあいだにひまをみつけては、編み物をしていました。ロープワークや漁網の補修など、仕事の中で「編む」ことが身近だったお父さんは、編み物も得意だったのです。漁を終え、何ヶ月ぶりかに家に帰ってくると、お父さんは「ただいま、おみやげだよ」と、よしえさんのために編んだセーターを渡してくれました。よしえさんは「父親に甘えることもなかったけれど、それがなによりの楽しみだった」と言います。お父さんのように誰かになにかを編んであげられるようになりたくて、幼かったよしえさんは、編み物を習いました。よしえさんの編むセーターは、着る人によろこんでほしいという気持ちが、しっかりつまっています。
さちこさんは新潟生まれ。いまは、だんなさんのご実家がある岩手県に住んでいます。気仙沼から車で４０分ほど内陸に向かったところにある町です。さちこさんが生まれ育った新潟は雪国として知られますが、岩手の冬の方が寒く感じるのだそうです。新潟は雪がつもるとあたたかいけれど、こちらは雪が少ない分しんしんと染みるのだとか。朝ダイヤモンドダストを見たのも、東北に来てからだそうです。ご実家では「冬の仕事」としてお母さまもよく編み物をしていて、そんな環境から、さちこさんも子どものころからよく手芸をしていました。いまもさちこさんは、静かにこつこつと、でもたしかな手さばきで、きれいなセーターを編み上げていきます。
きみこさんは気仙沼生まれ。３人姉妹の一番上のお姉さんとして育ちました。子どものころから冬になると、お母さんのとなりに座って一緒に編み物をしていました。だんなさんは同じ高校の２つ上の先輩。結婚してからも、きみこさんは家族のためによくセーターを編みました。息子さんが３才のときには、山形新幹線「つばさ」を編み込んだ、赤いセーターを編んであげたそうです。きみこさんはとても勉強熱心。きみこさんの「編み物ノート」には、セーターを編むごとに、どんなところに気をつけたか、どんな仕上がりになったかが事細かに記録されています。一着ずつ、着実に編み上げていくきみこさんのセーターは、どれも美しい仕上がりです。
ちずこさんは二十歳のころ、気仙沼で床屋さんを開きました。お客さんはおもに漁師さんたち。気仙沼の港には全国の漁船が水揚げにやってくるので、ちずこさんのお店には、三重・高知・北海道などいろんな地域の漁師さんがやってきました。気仙沼の港に寄る度に、ちずこさんの床屋さんに寄ってくれる人も多かったのだとか。ちずこさんは小さなころから編み物が好きで、床屋さんをやっているときも、お店を終えたあとよく家族のセーターを編んでいました。いまも、ひまさえあれば手を動かして、編み物をしています。漁師さんの髪を切り、家族のセーターを編んできたちずこさんの編むセーターは、いつも優しい雰囲気の仕上がりです。
とよこさんが初めて編み物に触れたのは、幼稚園のころです。農閑期になると、近所の若いお嫁さんたちが編み物の先生を招き、みんなで機械編みを習っていたそうです。とよこさんのお母さんもその一人。小さかったとよこさんは、大人たちにまじって毛糸で遊び、機械編みも覚えていったのだとか。大人になっても、家族のセーターを編んでいたとよこさん。お嬢さんの「お母さん、編み物好きなだから、編み手さんやってみたら」という言葉に背中を押されて、この仕事を始めました。とよこさんは、いつも丁寧に慎重に、セーターを編み進めていきます。そんな、とよこさんのセーターは、編み目が整然と並んでいて美しいです。
山に行っては山菜を採り、海に行ってはひじきを採る。梅干しも漬けるし、みそも作る。かずえさんの趣味はどれも暮らしに結びついています。編み物を始めたのは小学生のころ。おばあちゃんのやっていたカギ編みに興味を持ったのがきっかけで、お弁当ぶくろなどを編んでいました。もっと大きなものを編んでみたくなり、本を読んで棒編みを覚え、高校生のころにはスキー教室に着ていくため青いセーターを編んだそうです。結婚してからは、子どもにもたくさんセーターを編んでいました。いつもるんるん、楽しそうなかずえさんは、どこか、野原をかけるうさぎのようです。楽しみ上手でありながら、仕事に真面目なかずえさんの編むものは、いつもすみずみまで美しいです。ぜひ、見てみてくださいね。
ほがらかで、寛大で、いつも明るいよりこさんは、小さなころから手芸が大好きでした。小学生の夏休みには、木のつるでバッグを編んだりしたそうです。気仙沼の中でも山に近いところで育ったよりこさんは、結婚して、海沿いの唐桑という地域に嫁ぎました。いつも船の上で危険ととなりあわせで仕事をしている漁師さんの多い唐桑では、大きな神棚があったり、神社詣でを欠かさずしたりと、神さまを大切にする文化が強くあることを感じたそうです。よりこさんは、編み物や、パッチワークなど、手芸全般が大好きです。手を動かして、ひとつの作品ができあがるのが楽しいのだとか。「好きこそものの上手なれ」と笑うよりこさんの編むセーターは、人柄がうつし出されたように、ほがらかな表情をしています。
かつこさんは、気仙沼から車で２時間ほどの内陸の町のご出身。港町の気仙沼とは違い、山や田んぼが広がります。かつこさんは、小さなころから編み物が大好きでした。当時近所の農家はどこも羊を飼っていて、その羊毛をつむいだ毛糸でセーターやチョッキを編んでいました。子どものころは電気がなく、ランプの灯りで編み物をしたそうです。大人になってからもかつこさんは、ご近所の人たちから羊毛をあずかって、みんなにセーターを編んでいたのだとか。かつこさんの編むセーターは、編み地がとてもきれいです。そして、全体のバランスがいい。焦らず急がず、いつも気持ちを落ち着けて、丁寧に編んでいることが伝わってくるセーターです。かつこさんは、山菜採りも上手です。
ちえこさんの旦那さんは、近海マグロ漁の漁師さんでした。一度漁に出ると１～２ヶ月は家に戻れません。新婚時代のちえこさんは、そんな旦那さんのためにセーターを編みました。旦那さんは気に入って着ていたものの、ある日そのセーターにシミをつけてしまいます。そこでちえこさんは、旦那さんが漁に出ている間にそのセーターをほどき、編み直しておきました。漁から戻った旦那さんは「あれ、ここにシミがあったはずだけどなぁ」と不思議がりながら、またそのセーターを着ていたそうです。とても、ちえこさんらしいエピソード。ちえこさんは、いつも着る人のことを考えていて、自分の労を惜しみません。しかも、明るく笑顔で、さっぱりそれをやってのけます。そんなちえこさんの編むセーターには、どこか清々しさがります。
もとこさんは、小さいころから手づくりのものをつくるのが大好きで、ビーズやぬいものなどなんでもやっていました。もとこさん曰く「そういうところは、父に似たのかもしれない」とのこと。もとこさんのお父さんは遠洋漁業の漁師さんで、網を繕うなどの作業をしていたため手先が器用だったそうです。船に乗っているあいだに自分のセーターを編むこともあったのだとか。もとこさんも、毎年冬になるとセーターやカーディガンを編んでいたそうです。丁寧に慎重に編んでいくもとこさんのセーターは、手加減もちょうどよくって着やすい一着です。
いつもおしゃれなともこさん。子どものころに、モンチッチのお洋服をつくりたくて、お母さんに編みものを教えてもらいました。高校生のころには、セーターを編んだことも。洋服が好きだったともこさんは、仙台で就職して、ベビー服を売るお仕事をしていたのだそうです。いまは気仙沼で床屋さんをしているだんなさんと暮らしながら、ご実家のふとん屋さんのお仕事もされています。いまはおうちに帰ってから、編みものをしたり、ヨガをしたりするのが楽しみだそうです。ともこさんは、ご実家がふとん屋さんなこともあり、ぐっすり眠るにはどうしたらいいか、どうすればリラックスできるかなどを、よく考えています。そんなともこさんの編むセーターは、リラックスして自然に着られるものかもしれません。
高校時代、周りの友人たちがマフラーなどを編んでいたとき、えくこさんは「セーターを編みたい」と思い立ちました。理由は「セーターだったら、編むのに時間がかかっても、ずっと大切にする気がして」。赤い毛糸と本を買って編み物の先生のところに行き、半年ほどかかって一着のセーターを編み上げました。編み目もそろわない、左右非対称なセーターでしたが、その初めてのセーターはずっと大切に家で着ていたそうです。その後も編みものが好きで、仕事を始めてからも毎月のおこづかいはほとんど毛糸代に使っていました。きれいな編み地で編めるように、いつも心を落ち着けて編むようにしているえくこさんのセーターは、すーっときれいな仕上がりです。
たかこさんは、だんなさんと山登りに行くのが趣味でした。金曜日、仕事が終わるとだんなさんと二人でドライブして登山口に行き、車中泊して明け方から山登りをしたのだそうです。毎週末どこかしらの山に出かけて行ったので、東北の山はもうほとんど登ったのだとか。いまはだんなさんの介護をしながら、編み手の仕事をしています。編みものが楽しくてしょうがないというたかこさんは「ほどくのも、全然おっくうじゃないの」と笑います。どこかうまくいかないところがあったとき、たかこさんはさっとほどいて編み直します。そんなたかこさんの編んだセーターは、ほがらかさと潔さの入った、すっと気持ちのいいセーターで、いつも美しい編み地です。
ゆきえさんは、いつもにこにこ、おっとり笑顔で編みものをしています。ゆきえさんが編みものを始めたのは、子どものころです。最初はお母さんに編み方を教わって、表目と裏目を繰り返すだけでしたが、中学一年生のときに学校の授業でくつしたを編みました。初めて編んだくつしたは黄色とオレンジの混ざり糸。結婚後は、山に行くのが好きだっただんなさんのために、たくさんフィッシャーマンズセーターを編みました。そのセーターは今も穴も開かず虫も喰わずで、お嬢さんが着ているそうです。ゆきえさんの趣味はガーデニング。お庭を見ながら編みものをして、編みものにつかれてくるとお花の手入れをします。いつも楽しそうに編みものをするゆきえさんのセーターは、なんだか優しい雰囲気です。
あさこさんが初めて編みものをしたのは小学生のとき。家に毛糸がいっぱいあったので、それで編みものをしてみたくて、近所のおばちゃんに教えてもらったのが始まりだそうです。二十歳を過ぎたころ、そのとき付き合っていた人にえんじ色のセーターを編んだものの、ずいぶん大きくできあがってしまったというほろ苦い思い出も。編みものはもちろん縫いものも好きで、子どもが小さいときには、ズボンやワンピース、毛糸の帽子などなんでもつくって着せたのだそうです。あさこさんに「エチュードを編むのになにが一番難しいですか」と聞くと「メリヤス編みをきれいに編むこと」とのこと。基本を大切にする、あさこさんらしい答えでした。
みきよさんは、気仙沼の病院で看護婦さんをされていました。学校を卒業して３年ほど働いたころ、みきよさんは放浪の旅に出ました。看護師の免許を持っていれば全国どこでも仕事ができたので、行ってみたいところに行って働いたのだとか。なぜ旅に出たのかと聞くと「井の中の蛙にならないように、外に出て見たかった」とのこと。結婚して気仙沼に帰ってきてからも看護婦の仕事を続けていて、きっととても忙しかったと思うのですが、子どもに手編みのセーターを着せたくて、お昼休みや仕事から帰ってからひまをみつけては編みものをしたそうです。「あのときは、たくさん編んだねぇ」とみきよさんは笑います。
いつも穏やかで、にこにこ笑顔のかよこさん。周りの人も、かよこさんの近くにいるとすっと気持ちが落ち着きます。かよこさんは、カルトナージュと呼ばれるフランスの伝統的な手芸の先生もしています。厚紙でつくった箱に布などを貼って仕上げるもので、編み手さんの中にはかよこさんにカルトナージュを習いに行っている人もいます。そんなかよこさんの編むものは、どこまでもきれいで、気遣いが感じられます。どうしてそんなにきれいなんだろうと思ったら、かよこさんは若いころ、ご家族のみならず、お姉さんの友人たちなどにも頼まれてセーターを編んでいたのだそうです。やはり、人のために編むときは「きれいに編まなきゃ」と思うものですね。かよこさんのセーターは、気遣いにあふれています。
せつこ・ひでこ姉妹の妹さんです。編み会のときはいつも姉のせつこさんと並んで座り、楽しくおしゃべりしながら編んでいます。ひでこさんは中高時代は新体操部で、中学のときは県大会２位までいったそうです。たしかにひでこさんは、リボンやボールがにあう華麗さと、体育会的にものごとに打ち込む姿勢の両方を兼ね備えています。昔はおうちで子どもたちのセーターをよく編んだそうです。ひでこさんは、セーターを編む上で一番難しいのは「模様を美しく浮き立たせる、微妙な手加減」と言います。それだけ手加減にこまかく気を配るひでこさんの編むものは、全体のバランスも、模様編みも、いつもとても美しいです。
せつこ・ひでこ姉妹のお姉さんです。編み会のときはいつも妹のひでこさんと並んで座り、楽しくおしゃべりしながら編んでいます。せつこさんは高校卒業後から、ずっと病院の医療事務のお仕事をされていました。退職して家での時間もできたので、子どもや孫のものを編むために編み物を再開しました。せつこさんは、誰かによろこんでもらえるのがなによりうれしいのだそうです。そんなせつこさんの編むものは、品がよく、お行儀のいい雰囲気です。「MM01」や「リズム-A」など、複雑な編み柄のものも、きれいに整然と編み上げます。ちゃんとした場におでかけするときにも、せつこさんのセーターはきっと素敵に映えるはずです。
いつもからっと明るく、朗らかなきょうこさん。震災前は海の近くの市場で、海苔やウニ、わかめや塩辛などの海産物を販売するご商売をしていました。震災後、昔やっていた編みものを勉強しなおして、セーターなどを編み始めたそうです。ある日、きょうこさんのお宅によくお茶を飲みに行っている近所のおじいちゃんが、「編み手さんにいい人がいるよ。編みものが好きで、とても人柄のいい人だよ」と教えてくれたことが、きょうこさんと気仙沼ニッティングの出会いでした。きょうこさんは、いつも着る人のことを大切に考えて編み物をします。きょうこさんのカーディガンは、すみずみまできれいで、やさしい雰囲気です。
よしこさんは、優雅でやさしい雰囲気をまとった編み手さん。それと同時に、さばさばとした気持ちのいいお人柄で、趣味は畑仕事です。大根・にんじん・白菜など、季節の野菜はひととおり畑でつくっており、はやとうりやズッキーニなど、食べてみたい野菜は一応全部つくってみるのだそうです。小さいころから手仕事が好きで、よしこさん曰く「外が寒ければ帽子を編み、食べたい野菜があれば育ててみる」とのこと。よしこさんの趣味は、いつも実益を兼ねているようです。よしこさんは、しっかりとした審美眼を持っていて、いいものが編めるように、ひと目ずつ丁寧に着実に編み進めていきます。そんなよしこさんのカーディガンは、はっとするほど、美しい仕上がりです。
みつこさんは、いつも明るく楽しそうで、どんな状況も笑いにしてしまうすごい人。仮設住宅に住んでいたときは、きっと苦労も多かったと思うのですが、みつこさんの話す「仮設住宅面白ハプニング」の話にみんながどっと笑うほどでした。義理のお父さんは遠洋漁業の漁師さんで、以前船に乗っていたころは漁場につくまでの間船の中で自分のセーターを編んでいたのだそうです。編みものをしているみつこさんを見て「俺も昔編んだんだ」とよく言われたのだとか。みつこさんの編んだセーターは、どこか楽しげで軽やかです。みつこさんの人柄がにじみ出ています。
たかこさんは、気仙沼でも少し山のほう、田んぼがたくさんある見晴らしのいいところで、だんなさんと娘さんと３人仲よく暮らしています。編みものをはじめたのは20代のころ。当時は編み方を知らなかったので、小学生になる子どもを預けて、編みものの先生のところに毎日通い、夢中になってセーターを編んだそうです。たかこさんの編み方は、謙虚でおごったところがありません。いつも「これで大丈夫か」「もっときれいに編めないか」と考えながら、ていねいに編み進めていきます。編める枚数は多くはないのですが、たかこさんのセーターには、一着一着、気遣いがこめられています。
かよこさんは、編み手さんのムードメーカー。編み会のときも、かよこさんの周りはいつも笑いに包まれています。「下手な落語を聴いているより、ずっと面白い」と、毎週かよこさんの話を楽しみにしている編み手さんもいるほどです。おおらかで、どんなこともやさしく受け止め包み込んでくれるような度量のあるかよこさん。いまは３人の孫の子守りもしていて、編みものは、夜ひとりの時間ができてから集中してやっています。この「自分の時間」ができたことが、とてもうれしいそうです。そんなかよこさんの編むものには、家族に編んだもののようなあたたかさがあります。
りょうこさんは、震災前は食品加工会社に勤めていて、「めかぶ」の味付けを担当していました。なんと、めかぶ歴25年。毎日何トンものめかぶの味付けをし、全国のスーパーに出荷していたのだそうです。めかぶ好きの方なら、一度はりょうこさんが味付けしためかぶを食べたことがあるかも‥‥。震災で工場が流されてしまい、いまは家事と編み手のお仕事に集中されています。編みものは二十歳ごろに始めて、昔は家族のためにたくさんセーターを編んだのだそうです。りょうこさんの編むセーターは、美しいだけでなく、とても「着やすい」です。着る人のことがよく考えられています。編んで着てもらう、という経験をたくさんした方なのだなぁということが伝わってきます。
じゅんこさんは、気仙沼ニッティングでも腕利きの編み手さんです。ほかの編み手さんたちの先生役でもあり、みんなに頼りにされる存在です。あの「ミッフィー」の赤いカーディガンも、じゅんこさんが一人で編み上げました。じゅんこさんは、世の中の美しいものや、きれいなものをみつけるいい目を持っています。それに、いつも相手のことを思いやる、「みんなのお母さん」のようなやさしい心も。そんなじゅんこさんの編むものは、いつもすみずみまできっちりした仕事がされていて、編み目も全体のバランスも美しく、ひとつの作品のようです。それに、着る人のことをよく考えてあるので、着心地もやさしい。じゅんこさんの編むもの、ぜひ見ていただきたいです。
ふんわりしたオーラをまとい、いつもにこにこ笑顔のゆりこさんは、震災前までフラワーアレンジメントの先生をしていました。お仕事のかたわら、お嬢さんに手袋を編んだり、お孫さんにセーターを編んだりと、いつも大切な家族のために編みものをしてきたゆりこさんの編むものは、あたたかくふんわりしていて、一枚一枚に表情のある、やさしい仕上がりです。こめられた心がしずかに伝わってくる、そんなニットを編んでくれます。ゆりこさんにカーディガンを編んでもらうと、季節のお手紙を交換できるようなお友だちが気仙沼にできる、そんな楽しみも生まれそうです。
えみこさんは、いまは気仙沼でブティックをしていますが、そのお店は昔、毛糸屋さんでした。漁師さんや地元のお客さんたちがお店に来て毛糸をえらび、その毛糸で「こんなセーターを編んでほしい」とえみこさんたちに注文します。そこでえみこさんとおしゅうとめさんは、夜な夜なセーターを編んだのだそうです。寒い東北の冬をあたたかく越せるように、えりを厚くするなど「気仙沼仕様」で編むことも多かったのだとか。長年お客さんのためにセーターを編んできたえみこさんは、細かいところまで心配りあふれるカーディガンを編んでくれます。えみこさんにカーディガンを編んでもらうと、気仙沼にいらしたときに、えみこさんのお店に立ち寄る楽しみもできるかもしれません。
えりこさんは、編みものが好きだったお母さんの影響で小学生のときに編みものをはじめ、高校生のときには当時付き合っていた彼氏にセーターを編んでプレゼントしたのだそうです。（ちなみに、その彼氏がいまのだんなさんなのだとか‥‥）えりこさんは「正しく編む」だけでなく「美しく編む」ということを、いつも心がけています。途中まで編んだものを一歩引いて眺めてみて、きれいに編めているか、美しいセーターになっているかを確認することを大切にしているえりこさん。そんなえりこさんの編むものは、いつも美しいです。趣味は読書。白洲正子さんの本がお好きだそうです。
いつも楽しそうでさばさば明るいあつこさんの趣味は、「落語」と「とらさん」。落語は高校生のころから聴いていて、好きな落語家は「柳家小さん」さんだそうです。いまは知的障がい者の方の通所施設で就労支援のお仕事をしながら、編み手の仕事もしています。編みものは、お母さんがやっているのを見て中学生のころに始め、当時はマフラーやセーターなどを編んでいたのだそうです。結婚してからは、子どもたちのセーターをたくさん編んだのだとか。思い出のセーターは、丸い地球儀を編み込んだセーター。からっと明るいあつこさんのセーター、どうぞお楽しみに。
スポーティーな雰囲気をまとったまりえさん。中高時代はバレー部で、いまも気仙沼でソフトバレーの社会人チームで活躍しています。そんなまりえさんは、編みもの歴も長く、初めて編みものをしたのは小学生のころ。お母さんや叔母さんに教わりながら、チョッキや手ぶくろなどを編んでいたのだとか。まりえさんの編むセーターは、まりえさんのまっすぐな人柄が出ているかのように、正直で、すっとしていて、「いい人」な風情がただよいます。丁寧に編まれている、見ていて気持ちのいいセーターです。
ゆきさんは、最若手の編み手さん。２人の男の子のお母さんです。たまに編み会にお子さんを連れてきてくださると、ワイワイにぎやかに楽しくなります。編みものを始めたきっかけはお母さん。小学校高学年のときに、縫うのも編むのも得意だったお母さんに、編みものの基本を教えてもらったのがはじまりだそうです。いまでも、お正月に実家に帰った時などはお母さんと一緒にもくもくと編みものに没頭します。いまは子育てもあり、おうちで編みものができる時間は少ないので、なかなかたくさんは編めないのですが、ゆきさんのセーター、どうぞ楽しみにしていてください。
まゆみさんは山形の出身。友だちがフェアアイルのセーターを編んでいるとき、お菓子の缶に色とりどりの毛糸を入れているのを見て「なんてきれいで、素敵な趣味なのだろう」と心ひかれました。その友人がすすめてくれた、三國万里子さんの「あみものこもの」という本を見ながらミトンを編み、すっかり編み物にはまってしまいました。編み物好きが高じて、イギリスのブライトンという街の編み物学校に通ったり、北欧まで出かけて編み物を勉強したりと、世界をまわったまゆみさんは、いまは気仙沼に住んでいます。山形出身のまゆみさんは、昔は牡蠣とウニが苦手でしたが、気仙沼に来てすっかり好きになったそうです。まゆみさんの編んだセーターはときどき登場します。ぜひ、探してみてくださいね。

こんな編み手さんたちが 編んでいます。

こんな編み手さんたちが
編んでいます。