アトリエシムラさんのこと

アトリエシムラさんは、染織家で人間国宝の志村ふくみさんと、ふくみさんの娘で同じく染織家である志村洋子さんの芸術精神を継承するブランドです。「志村」の伝統を引き継いだ若いメンバーが、植物から色を受けとって糸を染め、紬の着物を織っています。

糸にみちびかれるように始まったコラボレーション

そんなアトリエシムラさんと、気仙沼ニッティングは、今年コラボレーション作品をつくりました。ことの発端は、アトリエシムラの志村昌司さんと、気仙沼ニッティングの御手洗のなにげない会話でした。

御手洗:
「植物で絹糸を染めるように、羊の毛糸も染めることってできるのでしょうか」
昌司さん:
「う〜ん、たぶん染まると思いますけど。どんな色になるでしょうね。やってみましょうか」

小さな毛糸のカセを3つつくり、アトリエシムラさんにお送りしました。数週間後、アトリエシムラさんが染めてくださった毛糸を見て、息をのみました。透きとおっていて、上品で、なんとも美しい。宝ものを見ているようで、ほれぼれしました。

これは、このままで終わらせてはいけないなぁ、この糸は、なにか作品に仕上げなくては。

そんな思いから、アトリエシムラさんと気仙沼ニッティングのコラボレーションが始まりました。

アトリエシムラが
はじめて染めた、
羊の毛糸。

同じ糸と言えど、蚕のまゆから紡いだ絹糸と、羊の毛から紡いだ毛糸では、太さも繊維の性質も、まったく違います。アトリエシムラさんは試行錯誤を重ねながら、毛糸を染めてくださいました。

アトリエシムラで染色をご担当されている志村宏さんは言います。

「毛糸をさわってみて、絹糸とは質感が違うのが印象的でした。絹よりも、でこぼこしている。なんというか、毛糸は呼吸が大きいんです。その毛糸の質感と呼吸を、手に反映させるようにしながら、染めていきました。染まり上がった毛糸を見て、おもしろい!と思いました。色に動きがあるんです。毛糸全体と、一本一本の細かな繊維の色を見くらべると、そこに色の動きが見えます。引きと寄りが、同時に見えるような感覚です」

三國万里子さんの
デザインした、
「mariko」

アトリエシムラさんで染めた毛糸を受けとって、作品をデザインしてくださったのは、ニットデザイナーの三國万里子さんです。この特別な作品は、「mariko」と名づけられました。

「mariko」について、
三國万里子さんに伺いました。

― アトリエシムラさんに染めていただいた毛糸を見たとき、どんなことを感じましたか。

三國さん: 
事前に御手洗さん(気仙沼ニッティングの社長)から「と〜〜〜っても、きれいなんですよ〜〜〜〜!」と聞かされていましたが、本当かなあと思っていました。植物の美しさというのは、その植物が生きている姿が美しいのであって、その色だけを取り出して染めても、わたしにはよさがわからないかもしれない。「言葉」とか「観念」が先行の「かしこまって理解すべき」美しさだったらどうしよう。そういうの苦手かも、とも思っていました。
でも実際に御手洗さんが袋から取り出して見せてくれた糸はそういう予想とは少し違ったものでした。ぱきっとした化学染料の色を見慣れている目には、だいぶ「渋い」のは確かです。でもあっさりと澄んでいて、どの色にも上品な愛らしさを感じました。マットなウールの極太糸に染み込んで、落ち着いた質感にも親しさがあり、
作りやすそう、何か作っていみたい、と率直に思いました。

― 前開きの羽織で、大きな花がすくすくと伸びて咲いている。とても斬新で、美しい作品だと思いました。編み始める前から、この作品のイメージはあったのでしょうか。どんなことを考えながら、編まれたのですか?

三國さん:
糸の「かせ」が各色1キロくらいずつあったので、どうせならば大きなものを作りたい、というのがニットコートになった一番の理由です。
色が主役のウエアなので、形は凝らず、おおらかに。
余計なディテイルは省く。
パッと見渡してああ、とわかるシンプルな意匠を一種類だけ配する。
これくらいのことを念頭に置いてデザインを始めました。
そういえば、そもそもの最初に糸と向き合った時に、「わたし、アランのカーディガンにも、ガンジーセーターにもなりたくないのよ」と言っているような気がしました。優しく柔らかい色ではあるけれど、言いたいことははっきりある。じゃあどんな?…と、似つかわしい形を探しながら、この「ゆったりした前びらきの羽織」にたどり着いたように思います。

―「mariko」は、和洋折衷というわけでもなく、まるでぜんぜん違うところに端緒のある、新しい系統のものに見えました。三國さんは、編みあがったこの作品を見て、どう感じましたか?

三國さん:
花の天真爛漫に伸びる様子が、こどもの描いた絵のようだと思いました。
大地から栄養を吸って、伸びて、その末に開花させるというのは、植物もわたしたち人間も同じだなあ、なんてことも、作りながら思っていました。ファッションのカテゴライズを初めからどこかに置いて、花って、人間って、なんてことを思いながら、のびのびと編ませてもらえて楽しかった、そういう一枚です。

―「mariko」は、どんな人が、どんな風に、着ているイメージでしょうか。

三國さん:
さっと羽織って海までドライブ、とか。鍵と財布だけ持って本屋に行って、ついでに喫茶店でのんびりする時、とか。リラックスする時間に着ていただけたらうれしいです。どんな女性、というのは、うーーん、「笑顔の素敵な女性」でしょうか。「mariko」を初めに着てくれた女性が、それはそれはうれしそうににこにこと笑ってくれて、その笑顔がこのウエアによく似合っていたので。

気仙沼の編み手さんたちが編み上げます

アトリエシムラさんに染めていただいた毛糸で、三國万里子さんがデザインしたこの「mariko」を、気仙沼ニッティングの編み手さんたちが編み上げました。

同じデザインでも、色によって、それぞれちがう表情を見せてくれます。

5種類の染料で染めました。

今回染めていただいた毛糸はぜんぶで5色。使った染料は、どれも日ごろアトリエシムラさんが絹を染めるのに使っている、自然の植物から取れたものです。

  • 藍【あい】
  • 茜【あかね】
  • 玉葱【たまねぎ】
  • 枇杷【びわ】
  • 桜【さくら】

mariko

価格:264,000(税込・配送手数料別)
サイズ:1種類
色:5種類
(2017年9月時点。染料の入手状況により増減する可能性があります。また、自然のもので染めているため、1点ずつ色合いが異なります)