手編みの編みものは、文字通り、手で編みます。
急いで編んでも、のんびり編んでも、
ひと目ずつしか編み進むことができません。
そういうひと目ひと目の編まれていた時間と、
人の手が動く軌跡が、編みものになっています。
編まれている長い時間に、
その場の空気やら、やさしい気持ちやら、
いろんなふわっとしたものが編み込まれていきます。
なぜでしょうね、それは、あんがい伝わるんです。
気仙沼は、遠洋漁業の港町です。
たくさんの船が、この港から出ていって、
世界中の海で漁をします。
「気仙沼ニッティング」のある編み手さんは、
子ども時代のこんな話をしてくれました。
「父は、カツオ船の漁師でした。
一度漁に出ると何ヶ月も家に戻りません。
そんな父は、船の上で時間をみつけては、
セーターを編んでいたらしいのです。
ロープワークや漁網の補修に慣れていたので、
当時の漁師は、編み物が得意でした。
数カ月ぶりに遠い海から帰ってくると父は、
『おみやげだよ』と言って、
船で編んできたセーターを渡してくれました。
父親に甘えることなんてなかったけど、
私は、父が編んだそのセーターを着るのがうれしくて、
とても自慢でした。」
お父さんのようになりたくて、
子どもながらに編み物を習ったその人は、
いまでは気仙沼ニッティングでセーターを編んでいます。
じぶんが、うれしかったり、自慢だったりしたことを、
いま、だれかのためにしています。
「気仙沼ニッティング」のセーターは、
三國万里子さんがデザインしています。
古典的な伝統柄の美しさを、
いまの時代に活かした編み柄とスタイルは、
よいものを知る世界中の人びとから注目されています。